
パッケージエアコンとは。種類ごとの特徴や選定する際のポイント
学校や介護施設、工場、オフィスなどに設置される業務用エアコンの一種に、“パッケージエアコン”と呼ばれる製品があります。
業務用エアコンの新設やリニューアルをお考えの方のなかには「パッケージエアコンはどのような空調機器なのか」「どのように製品を選定するとよいのか」など疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
この記事では、パッケージエアコンの基本的な仕組みや種類ごとの特徴、製品を選ぶ際に確認するポイントについて解説します。
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目次[非表示]
1.パッケージエアコンとは
パッケージエアコンとは、店舗やオフィス、工場などに設置される業務用エアコンの一種です。室外機と室内機がセットで稼働する仕組みとなっており、“ひとまとまり”という意味からパッケージエアコン(通称:PAC)と呼ばれます。
冷暖房を行う仕組みについては、家庭用のルームエアコンと基本的に同じ技術が用いられています。冷媒の循環によって熱を移動させるサイクルを繰り返すことにより、室内機の吹出口から冷風または温風が送られます。
▼パッケージエアコンの冷媒サイクル
工程 |
冷房時 |
圧縮 |
冷媒を圧縮して高温・高圧の状態にする |
凝縮 |
熱交換器で高温・高圧の冷媒から熱を奪い、冷房時は外気、暖房時は室内空気に熱が移動することで凝縮させる |
膨張 |
凝縮によって液化した冷媒の圧力を下げて低温・低圧の状態にする |
蒸発 |
低温・低圧の液冷媒を蒸発させて、冷房時は室内空気、暖房時は外気から熱を吸収する |
2.パッケージエアコンの種類
パッケージエアコンは、室内機の運転方式によって大きく2種類に分けられます。
2-1.店舗・オフィス用エアコン
店舗・オフィス用エアコンは、一般的に小中規模の施設に設置されるパッケージエアコンです。室外機と室内機の組み合わせ方によって、2つタイプがあります。
▼店舗・オフィス用エアコンの設備構成
ペア |
マルチ(同時運転) |
室外機と室内機を1台ずつ組み合わせる |
1台の室外機に2~4台の室内機をつなげて複数台を同時に運転する |
ペアタイプの店舗・オフィス用エアコンは、小規模な事務所や店舗などの1室のみで空調を使用する際に採用されます。
同時運転が可能なマルチタイプの店舗・オフィス用エアコンでは、1台のコントロールパネルで複数の室内機を同時に運転することが可能です。1台の室内機では足りないような広めのワンフロアの空調に採用されます。
2-2.ビル用マルチエアコン
ビル用マルチエアコンは、オフィスビルや病院・福祉施設、ホテルなどの中大規模の建物に設置されるパッケージエアコンです。
▼ビル用マルチエアコンの設備構成
マルチ(個別運転) |
1台の室外機に対して複数台の室内機を設置して個別に運転する |
1台の室外機に接続された複数の室内機をそれぞれ個別に運転する方式となっており、用途・広さに合わせて異なる室内機の容量を選択できます。各フロアの部屋やエリアごとの空調制御が必要とされるビル・施設に適しています。
ビル用マルチエアコンについてはこちらの記事でも解説しています。
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3.店舗・オフィス用エアコンとビル用マルチエアコンの違い
店舗・オフィス用エアコンとビル用マルチエアコンは、それぞれ想定される建物の規模が異なるだけでなく、空調運転の制御方法や電源供給の仕組み、空調設計の許容範囲などに違いがあります。
3-1.空調運転の制御方法
複数台の室内機を制御する方法に違いがあります。
店舗・オフィス用エアコンは、1つのコントロールパネルで複数の室内機を一括制御することが可能です。室内機は連動して稼働するため、個々に運転モードや温度設定を行うことはできません。
一方のビル用マルチエアコンは、各部屋やエリアに設置されたコントロールパネルを使って空調運転を行えます。室内機を個別に稼働できるため、部分的な空調制御を行えます。
3-2.電源供給の仕組み
室外機と室内機に電源を供給する仕組みが異なります。
店舗・オフィス用エアコンでは、電源を室外機につなげて室内機に給電します。空調の運転中は、接続されたすべての室内機で電力を使用することになります。
一方のビル用マルチエアコンは、室外機と室内機で別々の電源を使用します。室外機の能力範囲内で室内機の容量を選べるほか、稼働していない室内機には電力供給が行われないため、節電につながります。
3-3.空調設計の許容範囲
室内外機の高低差や冷媒配管の長さなどの許容範囲に違いがあります。
店舗・オフィス用エアコンでは、一般的に冷媒配管の長さが約50~100mまで、室内外機の高低差は約30m以内とされています。
ビル用マルチエアコンの場合は、ビル1棟や大規模な施設での設置が想定されており、設計の許容範囲が広くなっています。冷媒配管の長さは約1,000m、室内外機の高低差は約50m(室外機が上にある場合)とされています。
3-4.設置スペースと故障時のリスク
店舗・オフィス用エアコンでは、室内機1〜2台に対して室外機1台の設置が必要です。そのため、室内機の台数分の室外機の設置スペースを確保しなければならず、スペースが広くなる傾向があります。
一方、ビル用マルチエアコンは、1台の室外機で複数台の室内機を稼働できます。室内機を増設する際も、室外機の設置台数は変わりません。そのため、室外機の設置スペースを抑えられます。
また、故障時のリスクにも違いがあります。ビル用マルチエアコンは、1台の室外機に複数の室内機が接続されているため、室外機が故障した場合、接続されているすべての室内機が停止し、建物全体の空調が停止する可能性があります。これは、大規模なオフィスビルや商業施設で特に大きな影響を及ぼし、業務の停滞や顧客の不満につながるリスクがあります。
一方、店舗・オフィス用エアコンは、接続できる室内機の台数に制限があるため、1台の室外機が故障しても、影響を受ける範囲が限定的であるケースが多くあります。例えば、フロアごとに独立したシステムを構築している場合、一部のフロアで空調が停止しても、ほかのフロアは影響を受けません。その結果、業務全体への支障を避けられます。
5.パッケージエアコンを選定する際に確認するポイント
パッケージエアコンは、施設に求められる空調能力と設置環境に合わせて、運転方式や室内機の形状を選択することが必要です。確認しておくポイントには、以下の2つが挙げられます。
5-1.施設の規模・用途に応じた空調能力
施設の規模や用途によって求められる空調能力は異なります。
フロアの面積が広く空調負荷が大きくなりやすい施設環境ほど、強いパワーで運転できる製品を選ぶ必要があります。
店舗・オフィス用エアコンでは、1.5~12馬力の製品が販売されています。
▼面積に対して求められる一般的な馬力
平米数 |
馬力 |
24~35㎡ |
1.5馬力 |
26~39㎡ |
1.8馬力 |
29~43㎡ |
2馬力 |
33~49㎡ |
2.3馬力 |
37~55㎡ |
2.5馬力 |
47~70㎡ |
3馬力 |
66 ~ 97㎡ |
4馬力 |
82 ~ 122㎡ |
5馬力 |
94 ~ 139㎡ |
6馬力 |
132 ~ 195㎡ |
8馬力 |
165 ~ 243㎡ |
10馬力 |
197 ~ 291㎡ |
12馬力 |
ビル用マルチエアコンの場合には、54馬力ほどまでの高い空調能力を持つ製品が販売されてます。各フロアやエリアに求められる空調能力に合わせて、室内機の馬力を選択できます。
5-2.設置環境に適した室内機の形状
パッケージエアコンの室内機にはさまざまな形状があり、設置環境に合わせて選択することが必要です。メーカーや機種によって室外機の選択肢は異なりますが、一般的な形状として以下が挙げられます。
▼パッケージエアコンで選択可能な室内機の形状
室内機の形状 |
特徴 |
天井埋込カセット型 |
天井内に室内機を埋め込んで設置する。天井部分の圧迫感がなく、吹出口は1・2・4方向から選択できる。 |
天井埋込ダクト型 |
天井内に室内機を埋め込み吹出口と吸込口を分けて設置する。風向き調整がしやすい。 |
天井吊型 |
天井部分に室内機を吊り下げて設置する。吹出口は1方向となり、フロアのどちらか片側に設置する。 |
壁掛型 |
壁面の上部に室内機を設置する。狭いスペースでも設置しやすいが、吹出口は1方向のみとなる。 |
床置き型 |
室内機を床に置いて設置する。部屋の低い位置まで風が届くが、吹出口は1方向のみとなる。 |
各形状のメリット・デメリットはこちらの記事で解説しています。
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6.まとめ
この記事では、パッケージエアコンについて以下の内容を解説しました。
- パッケージエアコンの仕組み
- パッケージエアコンの種類
- 店舗・オフィス用エアコンとビル用マルチエアコンの違い
- パッケージエアコンを選定する際に確認するポイント
パッケージエアコンは、室内機の運転方式によって大きく店舗・オフィス用エアコンとビル用マルチエアコンに分けられます。
それぞれ想定される建物の規模や運転方法、設計上の制限などが異なるため、求められる空調能力や設置環境を踏まえて製品を選ぶことが大切です。
TAKEUCHIでは、業務用エアコンの導入設計から施工、保守メンテナンスまでトータルサポートしています。施設の特徴や使用環境に合わせた空調設計をプランニングいたします。