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冷房使用時の「換気」、どうすればいい? 機械換気設備の活用と運用ポイント

夏場の公共施設運営において、利用者の快適性を確保するための「冷房の効き」と、健康・安全を守るための「換気の徹底」は、どちらも妥協できない重要な管理課題です 。

この二つの要素は、一見すると相反するように感じられることがあり、施設管理者にとってその両立は常に頭を悩ませるテーマとなっています 。特に、冷房による快適な室温を維持しつつ、換気によって外部からの熱気の侵入や冷気の損失を最小限に抑えることは、エネルギー効率の観点からも重要な課題です 。

近年、新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、空気感染リスクへの意識が飛躍的に高まり、室内の「空気の質」に対する利用者や社会からの関心と要求は一層強まっています 。

この社会的な意識変化は、換気の重要性をかつてないほど高めており、施設管理には、単に室温を快適に保つだけでなく、目に見えない空気環境を科学的かつ効果的に管理する責任が求められるようになりました 。公衆衛生と利用者の信頼確保という、より広範な社会的責任を果たすための基盤として、適切な換気は不可欠です 。

今回は、機械換気設備を含めた実践的な換気方法についてご紹介します。

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目次[非表示]

  1. 1.冷房中でも換気が求められる理由
  2. 2.機械換気設備の種類と役割
    1. 2-1.第一種換気方式(給気・排気ともに機械)
    2. 2-1.第二種換気方式(給気が機械、排気が自然)
    3. 2-2.第三種換気方式(給気が自然、排気が機械)
  3. 3.冷房中にできる効果的な換気対策
    1. 3-1.機械換気の常時稼働と適切な換気量設定
    2. 3-2.自然換気との併用と冷気ロス軽減の工夫
    3. 3-3.CO2センサーの活用による「換気の見える化」
    4. 3-4.利用者への適切な周知と協力依頼
  4. 4.施設管理者向け:換気対策実践チェックリスト
  5. 5.まとめ:冷房中の「目に見えない空気」も管理しよう


1.冷房中でも換気が求められる理由

人が活動する空間では、呼吸によって二酸化炭素(CO2)が常に排出されます 。換気が不十分な場合、室内のCO2濃度は容易に上昇します 。

このCO2濃度の上昇は、利用者の不快感(息苦しさ、倦怠感)や集中力の低下を引き起こすだけでなく、頭痛や眠気といった健康への影響も懸念されます 。

CO2濃度と健康への影響


特に公共施設のように不特定多数の人が長時間滞在する場所では、CO2濃度の上昇が利用者の活動効率や健康に直接的な影響を与えるため、その影響はより顕著になります 。

例えば、CO2濃度が1000~1500ppmに達すると、オフィスなどでの生産性が妨げられる可能性があり、1500~2000ppmでは眠気を感じる人が増えることが指摘されています 。換気は単なる感染症対策だけでなく、施設の機能性や利用価値を維持・向上させるための基盤であり、快適で健康的な環境は、利用者の満足度向上、ひいては施設の評価向上に繋がります 。

新型コロナウイルスなどの感染症対策において、「空気の入れ替え」は飛沫やエアロゾルによる感染リスクを低減するために必要不可欠な要素です 。厚生労働省は、必要な換気量として「1人当たり30㎥/h以上、CO2濃度1000ppm以下」を確保することを推奨しており、これは感染症対策の重要な基準となっています 。この基準を維持することは、公衆衛生の観点から極めて重要です 。

多くの施設で使われているエアコンや冷房設備は、室内の空気を循環させて温度を調整する装置であり、外部の新鮮な空気を取り入れたり、室内の汚れた空気を排出したりする「換気」の機能は通常持ち合わせていません 。

したがって、冷房を稼働しているからといって換気が行われているわけではなく、別途、適切な換気対策を講じる必要があります 。冷房と換気は異なる目的を持つ設備であり、両者の機能を正しく理解し、適切に運用することが求められます 。



2.機械換気設備の種類と役割

公共施設には、その用途や規模に応じて様々な換気システムが導入されています 。ここでは、代表的な機械換気設備の種類と特徴を解説し、施設管理者が自施設のシステムを理解する上で役立つ情報を提供します 。


換気方式

給気方法

排気方法

主な特徴

公共施設での主な適用例

冷房効率への影響

運用上の

ポイント

第一種換気

機械

機械

熱交換機能を持つタイプが多く、計画換気が可能

全館、オフィス、会議室、商業施設など

損ないにくい(熱交換型の場合)

常時運転、フィルター清掃、定期点検

第二種換気

機械

自然

室内の気圧を高く保つ(正圧)

クリーンルーム、手術室など特殊環境

直接影響(外気温度の影響)

外部からの汚染物質侵入防止

第三種換気

自然

機械

室内の気圧を低く保つ(負圧)

トイレ、厨房、喫煙室など部分換気

影響大(外気温度の影響)

部分換気、自然給気口の確保


2-1.第一種換気方式(給気・排気ともに機械)

第一種換気方式は、給気(外気の取り入れ)と排気(室内空気の排出)の両方を機械ファンで行う方式です 。これにより、計画的かつ安定した換気量を確保できます 。

この方式の最大のメリットは、換気の際に排出される空気の熱(顕熱)と湿度(潜熱)を回収し、取り入れる外気に移す「熱交換」機能を持つ全熱交換型換気設備(例:ロスナイ、エコエアなど)が存在する点です 。

熱交換機能により、夏場は室内の冷気を外に逃がしにくく、外気の熱気を室内に入れにくいため、冷房効率を大幅に損なわずに新鮮な空気を取り入れることが可能です 。

三菱電機のロスナイは、特殊加工紙の仕切板と間隔板で構成されたエレメントを介して熱と湿度を交換し、給気と排気が混ざり合うことなく新鮮な空気を供給します 。エコエア90も同様に、高い熱交換効率で室温変化を最小限に抑え、年間を通してエネルギー消費を抑制します 。

第一種換気(特に熱交換型)は、本体のランニングコスト差を大幅に上回る省エネ効果をもたらし、年間を通してエネルギーコストを削減できます 。これは単なる換気機能の提供だけでなく、施設の運用コスト削減という施設管理者の重要な目標に直結します 。

さらに、第一種換気は給気口の数が少ないため、メンテナンスが比較的容易です 。集中給気口によってメンテナンス箇所が集約されるため、維持管理の手間も削減されます 。


▼活用ポイント

  • 冷房中も常時運転が基本:熱交換機能により冷房効率を維持できるため、24時間常時運転が推奨されます 。これは、計画的な換気によって常に新鮮な空気環境を保つ上で不可欠です 。
  • フィルター清掃と定期点検が必要:熱交換効率を維持し、清浄な空気を供給するためには、フィルターの目詰まり防止が不可欠です 。ロスナイのNOx吸収フィルターは3ヶ月に1回以上の清掃が推奨されています 。定期的な清掃と点検は、設備の性能を最大限に引き出し、長期的な運用コストを抑える上でも重要です 。


2-1.第二種換気方式(給気が機械、排気が自然)

第二種換気方式は、機械で外気を強制的に取り入れ、排気は自然に行う方式です 。室内の気圧を高く保つ「正圧」を作り出すため、クリーンルームや手術室など、外部からの汚染物質の侵入を防ぎたい特殊な環境で主に採用されます 。一般的な公共施設では稀な方式です 。


2-2.第三種換気方式(給気が自然、排気が機械)

第三種換気方式は、排気を機械ファンで行い、給気は自然給気口や窓などから自然に取り入れる方式です 。

一般的な住宅で多く採用されていますが、公共施設ではトイレや厨房など、特定の汚染源から空気を排出して「負圧」を形成したい場所に設置されることが多いです 。部分的な換気には有効ですが、室全体の換気や、冷房効率を維持しながらの換気には不十分な場合があります 。自然給気口からの空気は外気温の影響を直接受けるため、冷房効率を損なう可能性があります 。



3.冷房中にできる効果的な換気対策


3-1.機械換気の常時稼働と適切な換気量設定

設置されている機械換気設備は、原則として24時間「常時ON」で稼働させることが基本です 。特に2003年7月以降は、事務所、病院、福祉施設、店舗など多くの公共施設において「24時間(常時)換気」が義務化されています 。これは単なる推奨事項ではなく、法令遵守の観点からも徹底されるべき事項です 。

換気設備のスイッチが入っているだけでなく、設定されている換気量が適切であるかを確認することが重要です 。厚生労働省は、感染症対策として「一人当たり30㎡/h以上」の換気量を推奨しており、CO2濃度を概ね1,000ppm以下に維持することが目安とされています 。

換気量が弱すぎると、十分な空気の入れ替えが行われず、換気の意味が薄れてしまいます 。単に「ON」にするだけでなく、義務化された基準を満たす適切な換気量と、その性能を維持するためのメンテナンスがセットで求められます 。

換気設備のフィルターの目詰まりや機器の損傷は、換気性能の低下に直結します 。定期的な清掃と点検は必須であり、特に「建築設備定期検査報告」(いわゆる12条点検)では、有資格者による年1回の専門点検が義務付けられています 。これにより、機器の異常音や振動、発熱なども確認し、安全かつ効率的な稼働を維持します 。施設管理者は、換気設備の運用が単なる快適性や感染症対策だけでなく、法令遵守という側面を持つことを強く認識する必要があります 。これにより、予算確保や人員配置の優先順位付けにも影響を与え、より戦略的な設備管理が求められます 。


3-2.自然換気との併用と冷気ロス軽減の工夫

機械換気設備が不十分な場合や、より効果的な換気を求める場合は、自然換気を併用することが有効です 。最も効果的なのは、部屋の対角線上にある窓を同時に開けることで、空気の通り道を作り、効率的な換気を促す方法です 。

厚生労働省は、換気の目安として「30分に1回以上、数分間程度、窓を全開にすること」を推奨しています 。短時間でも定期的に空気の入れ替えを行うことが重要です 。ただし、窓が2つ以上あっても、2つの窓が近い場合や窓が小さい場合などは、窓を開けただけでは効率よく換気ができるとは言えません 。これは、単に窓を開けるだけでなく、換気の「質」を意識する必要があることを示唆しています 。

窓開け換気は冷気ロスを伴いますが、扇風機やサーキュレーターを併用することで、この影響を軽減できます 。窓の外に向かってサーキュレーターを運転させることで、室内の汚れた空気を効率的に排出し、空気の停滞を防ぐことができます 。また、室内の空気を攪拌することで、冷房効率の低下を感じにくくする効果も期待できます 。

自然換気は手軽な方法ですが、その効果は環境要因に大きく左右されます 。施設管理者は、単に「窓を開ける」だけでなく、その効果を最大化するための工夫(対角線換気、サーキュレーター利用)を積極的に取り入れ、同時に「熱中症とならないよう工夫する」といった外気条件への配慮も怠らない必要があります 。

これは、換気が単なる空気の入れ替えではなく、室内環境全体の最適化という視点を持つべきであることを示しています 。


3-3.CO2センサーの活用による「換気の見える化」

CO2センサーは、室内の換気状況をリアルタイムで「見える化」するための非常に有効なツールです 。厚生労働省は、感染症対策の良好な換気状態の基準として二酸化炭素濃度1,000ppm以下が良いとしています 。

センサーの数値を確認することで、換気が不足している状況を客観的に把握し、適切なタイミングで換気を促すことができます 。これにより、経験や感覚に頼るのではなく、データに基づいた効率的かつ効果的な換気運用が可能になります 。

CO2濃度は身体への影響(眠気、疲労感など)と密接な関係があるため、適切な換気により利用者のパフォーマンス低下を防ぐことができます 。CO2センサーは、施設管理者が「目に見えない空気」を管理するための強力な手段となります 。これにより、換気作業が感覚的なものからデータに基づいた科学的な運用へと進化し、より効率的かつ効果的なファシリティマネジメントが実現できます 。これは、利用者の安全と快適性を確保する上で、投資対効果の高いソリューションとなります 。


3-4.利用者への適切な周知と協力依頼

換気を実施する際、特に窓開け換気を行う場合、室温が一時的に上昇したり、冷房の効きが弱まったりする可能性があります 。このような状況を事前に利用者へ周知し、「換気による空気環境改善へのご理解とご協力」を求める掲示を行うことは非常に重要です 。これにより、利用者からの「冷房が効かない」といった不満を未然に防ぎ、スムーズな施設運営を支援します 。

掲示内容の工夫としては、換気の目的(感染症対策、快適性維持など)を簡潔に伝え、一時的な不便への理解を促す文言を盛り込むことが効果的です 。

施設管理は、設備や技術の運用だけでなく、利用者との円滑なコミュニケーションも重要な要素です 。特に、快適性や健康に関わるデリケートな問題においては、透明性のある情報提供と協力依頼が、利用者の満足度を高め、施設の評判を維持する上で不可欠となります 。

これは、技術的側面と人的側面の両方を考慮した総合的なファシリティマネジメントの重要性を示しています 。


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4.施設管理者向け:換気対策実践チェックリスト

日々の運用に役立つ具体的なチェックリストを以下に示します 。

このリストは、定期的な点検と確認を促し、安全で快適な空気環境の維持に貢献します 。施設管理の業務は多岐にわたり、換気管理もその一部であるため、多忙な中で漏れなく適切な頻度でチェックを行うことは難しいです 。

このチェックリストは、特定の個人に依存せず、誰でも一定の品質で換気管理を行うための標準化された手順を提供します 。これにより、業務の引き継ぎや新人教育にも役立ちます 。また、定期的なチェックは、設備異常や換気不足といったリスクを早期に発見し、対処することを可能にします 。特に法的義務である12条点検を組み込むことで、コンプライアンス遵守の意識も高めます 。


項目

チェック内容

頻度

換気設備の稼働

常時ONになっているか、換気量は適切か(30㎥/h/人、1000ppm以下)

毎日

フィルター清掃

目詰まり・汚れの確認、必要に応じて清掃

月1~2回(またはメーカー推奨頻度)

CO2濃度の確認

1,000ppm以下を維持できているか、センサーは正常に機能しているか

日常的(リアルタイムモニタリング)

窓開け換気の実施

自然換気が必要な環境か確認、対角線窓開け・サーキュレーター併用

適宜(CO2濃度や利用状況に応じて)

利用者対応

換気の案内表示があるか、定期的に更新しているか

常設または定期掲示

専門家による定期点検

年1回の建築設備定期検査報告(12条点検)は実施済みか

年1回



5.まとめ:冷房中の「目に見えない空気」も管理しよう

冷房使用時であっても、換気を怠れば、室内のCO2濃度上昇や感染症リスクの増大により、快適で安全な空間は保てません 。特に公共施設では、多種多様な利用者が集まるため、機械換気設備の性能を正しく理解し、最大限に活用することが不可欠です 。

第一種換気のような熱交換型設備は、冷房効率を損なわずに換気を実現する強力なツールであり、その常時稼働と定期的なメンテナンスが性能維持の鍵となります 。また、CO2センサーを活用して換気を「見える化」し、必要に応じて自然換気(対角線窓開け、サーキュレーター併用)を効果的に併用することで、より質の高い空気環境を維持できます 。

利用者への適切な周知と協力依頼は、換気による一時的な不便への理解を促し、円滑な施設運営に貢献します 。これは、技術的側面と人的側面の両方を考慮した総合的なファシリティマネジメントの重要性を示しています 。

今一度、施設の「空気の流れ」を点検し、本稿で紹介した運用ポイントやチェックリストを活用することで、利用者にとって安全で安心、そして快適な公共空間を提供できるよう、積極的に取り組むことが推奨されます 。

「空気」という目に見えない要素の管理こそが、現代の施設管理者に求められる重要なスキルであり、施設の価値を高めることに直結します 。

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