介護施設のBCP策定が義務化! 空調設備の運用に求められる取り組みとは
介護施設は、要介護者とその家族の生活を支える場所となり、切れ目のない介護サービスの提供が求められます。
感染症の全国的な流行や自然災害が発生した場合でも、必要な介護サービスを安定的・継続的に提供するためには、BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)を策定しておくことが重要です。
なかでも空調設備は、夏場・冬場の室温を管理して身体への影響を防ぐとともに、換気によって感染症を予防する役割があります。
介護施設のBCPを策定する際には、空調設備の運用に関する平常時の対策についても検討することが必要と考えられます。
この記事では、介護施設におけるBCP策定の義務や、空調設備の運用に関して必要な取り組みについて解説します。
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目次[非表示]
1.介護施設におけるBCP策定の義務化
BCPとは、感染症のまん延や大規模な自然災害などの不測の事態が発生した際に、事業活動・重要業務の継続あるいは早期復旧を行うための計画です。内閣府が出している『事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』においては、以下のように定義されています。
▼BCPの定義
大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。
引用元:内閣府『事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』
▼BCPの概念
画像引用元:内閣府『事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』
介護施設においては、2021年4月の介護報酬改定に伴ってすべての介護サービス事業者に対して業務継続のためのBCP策定が義務づけられました。
緊急事態の発生時に必要な介護サービスを継続して提供できるように、平常時の準備や初動対応、復旧対応などを取り決めておくことが求められます。
出典:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定における改定事項について』/内閣府『事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』
2.介護施設のBCPにおいて空調設備が担う役割
室温や空気環境を快適に保つための空調設備は、介護施設のBCPにおいて重要な役割を担っています。
2-1.感染症やクラスターの発生を防ぐ
1つ目は、施設内での感染症やクラスター(集団感染)の発生を防ぐことです。
2020年から世界的に流行した新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)によって、国民生活に大きな影響を及ぼしたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
介護施設では、抵抗力が低下しやすい高齢者や基礎疾患がある方が集団で生活しているため、クラスターの発生と重症化につながるリスクがあります。実際にコロナによるクラスターが発生した介護施設では、人が密集しやすいエリアにおいて換気が不十分だったことが原因と考えられる事例が多く見られています。
感染症が流行した際に、換気によって清潔な空気環境を維持することで、介護施設でのクラスターや感染者の重症化を防ぐことにつながります。
なお、感染症対策と換気についてはこちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『感染拡大防止のための効果的な換気について』『介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン』『介護現場における感染対策の手引き(第3版)』
2-2.停電時に室内温度を適正に保つ
2つ目は、停電時でも室内温度を適正に保つことです。
自然災害によって電力供給が停止すると、夏場・冬場に冷暖房を使えなくなり、熱中症や冷えによる健康リスクが生じる可能性があります。
BCPにおいて停電時にも稼働できる空調設備や代用設備を備えておくことで、適正な室温を維持できるようになり、復旧までの生活環境を維持する一助となります。
なお、感染症対策における空調管理の重要性はこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン』『室温と高血圧、睡眠の関係』/環境省 熱中症予防情報サイト『高齢者のための熱中症対策』
3.介護施設の空調設備に関するBCPの取り組み
介護施設のBCPを策定する際には、感染症の予防や自然災害による停電への備えを行う観点から、空調設備に関する取り組みを盛り込むことがポイントです。
3-1.換気方法の見直し
感染症の流行に備えた平常時の取り組みとして、換気方法の見直しがあります。業務用エアコンには換気機能が備わっていないため、機械換気や窓の開放を行うことが必要です。
▼換気方法の種類
種類 |
換気方法 |
機械換気 |
24時間換気システムや換気扇を稼働させて常時換気を行う |
窓の開放 |
30分に1回以上、数分ほど窓を全開する
2方向の窓開けや2段階換気、扇風機・サーキュレーターの併用を行う
|
冷暖房を運転するシーズンにおいて、窓の開放による室温の変化を防ぐには、1方向の窓を少し開けて連続的に換気する方法もあります。
機械換気を行える設備がない介護施設では、窓の開放による換気の実施間隔や具体的な方法を定めて職員に共有しておくことがポイントです。
なお、厚生労働省の『感染拡大防止のための効果的な換気について』では、感染症対策の観点から推奨される換気量と二酸化炭素濃度が示されています。
▼感染症対策で推奨される必要換気量と二酸化炭素濃度
必要換気量 |
二酸化炭素濃度 |
1人当たり毎時30m3 |
1,000ppm以下 |
換気方法を見直す際は、二酸化炭素の濃度を測定するCO2センサーで換気量を確認したり、空気の流れを視える化できる“気流シミュレーション”をプロに依頼したりすることも有効です。
気流シミュレーションについてはこちらの記事で解説しています。
出典:厚生労働省『感染拡大防止のための効果的な換気について』『冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法』
3-2.電源自立型GHPの導入
自然災害によって停電した際に空調設備を利用できるように、電力供給がなくても運転が可能な電源自立型GHP(※)を導入する方法があります。
電源自立型GHPには発電機とバッテリーが搭載されており、停電時にはバッテリーでガスエンジンを起動させて冷暖房を行うことが可能です。
▼電源自立型GHPの仕組み
稼働する場面 |
運転の仕組み |
通常時 |
省エネ運転で空調運転を行う
発電した電力を室外機に給電して運転するタイプもある
|
停電時 |
発電した電力を利用して空調の自立運転を行う
照明やスマートフォン、テレビなどの予備電源として使用することも可能
|
災害用の自家発電機を設置している介護施設でも、空調設備に電源自立型GHPを導入することで医療機器・照明・情報機器などへの電力供給を行えます。
※ガスエンジンで室外機の圧縮機を駆動させて、空気中にある熱をエネルギーに転換するヒートポンプ運転によって冷暖房を行う空調設備
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4.まとめ
この記事では、介護施設のBCPについて以下の内容を解説しました。
- 介護施設におけるBCP策定の義務化について
- 介護施設のBCPにおいて空調設備が担う役割
- 介護施設の空調設備に関するBCPの取り組み
介護施設でのクラスターや近年の大規模な自然災害が見られるなか、安定かつ継続的に介護サービスを提供するにはBCPの策定が欠かせません。
空調設備には、清潔な空気環境をつくって感染症を予防するほか、停電時でも適正な室内温度を維持して健康への影響を防ぐ役割があります。
BCPを策定する際は、換気による感染症対策や停電時の備えを行うために、空調設備に関する内容を盛り込むことが必要です。
TAKEUCHIでは、施設の快適性や省エネ性だけでなく、BCPの観点から求められる機能も含めて空調設備のトータル改善を支援しております。最新の分析技術で空気の流れを視える化したうえで、効果的な換気や冷暖房を行える空調設備をご提案いたします。
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