
介護施設の空調導入・リニューアルに活用できる補助金と利用時の注意点
介護施設では、高齢者の方々が安心して快適に過ごすために、安定した空調環境の整備が欠かせません。近年は猛暑や厳冬が年々深刻化しており、利用者や職員の健康を守るためにも、高性能な空調設備の導入が求められています。
しかし、老朽化した空調設備のリニューアルや、省エネ・ZEB化を目的とした改修には多額の費用がかかるのが現実です。「費用負担が大きく、導入・リニューアルに踏み切れない」とお悩みの施設管理者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護施設で空調設備を導入・リニューアルする際に活用できる補助金制度を、省エネ・設備リニューアル、ZEB化・CO2削減、脱炭素・防災・熱中症対策の目的に分けて紹介します。現在受付中のものだけでなく、すでに今年度の受付が終了している補助金も含めて紹介するため、設備投資計画を立てる際の参考にしてください。
※記事内で紹介している補助金制度は、2025年度実施の情報を参考にまとめています。実施年度によって要件が異なる場合もあるため、詳細は必ず各公式サイト・資料をご確認ください。
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「空調設備導入に活用できる補助金と申請ステップを紹介」
目次[非表示]
1.省エネ・設備リニューアルに活用できる補助金
介護施設における空調設備のリニューアルは、単なる老朽化対策ではなく、省エネ・コスト削減を同時に実現できるチャンスです。
ここでは、既存施設の省エネ改修や設備更新に活用できる代表的な補助金を紹介します。これらを活用することで、改修費用を抑えながら施設全体のランニングコストを低減し、入居者・職員双方に快適な環境を提供することができます。
1-1.既存建築物省エネ化推進事業┃国土交通省
老朽化した建築物を省エネ化・快適化する改修を支援する、国土交通省の補助制度です。
高効率な空調・換気設備の導入や断熱性能の向上などを対象に、改修費の一部が補助されます。申請する際は、既存建築物の省エネ改修工事が以下の要件をすべて満たすことが条件です。
▼主な事業要件
(1) 躯体(外皮)の省エネ改修を行うものであること。ただし、高機能換気設備を設置する場合は、換気経路を確保するための躯体または外皮の改修で足りるものとし、断熱性能を高める躯体改修は必須としません。
(2) 建物全体におけるエネルギー消費量が、改修前と⽐較して20%以上の省エネ効果が⾒込まれる改修⼯事を⾏うものであること。ただし、躯体(外⽪)の改修⾯積割合が20%を超える場合は、15%以上の省エネ効果とする。なお、高機能換気設備を設置する場合は、設置する当該階単位においてエネルギー消費量が改修前と比較して20%以上の省エネ効果が見込まれる改修工事を実施することも可とします。
(3) 改修後に一定の省エネルギー性能に関する基準を満たすこと。
(4) 改修後の建築物の省エネルギー性能を表示すること。
(5) 省エネルギー改修工事とバリアフリー改修工事にかかる事業費の合計が500万円以上であること。
(6) 改修後に耐震性を有すること。
(7) 原則として、採択後から採択を受けた年度の年度末までの間に工事契約等の締結を行うものであること。
(8) 事例集等への情報提供に協力すること。
引用元:既存建築物省エネ化推進事業評価事務局『公募概要』
この事業は、建築物ストックの長寿命化と快適性向上を同時に実現することを狙いとしています。特に介護施設のように空調の安定稼働と快適な室温維持が求められる環境においては、利用者・職員双方の満足度向上にも直結します。また、バリアフリー改修を併せて実施する場合も補助対象となる点が特徴です。

画像引用:国土交通省『令和8年度 住宅局関係 予算概算要求概要』
▼既存建築物省エネ化推進事業の概要
項目 | 内容 |
補助対象 |
|
補助率 | 改修費の1/3 |
補助上限額 | 5,000万円/件(設備改修の補助は2,500万円まで) |
公募時期 | 2025年度は4月18日(金)~5月23日(金)に実施 |
2025年度の募集は終了しており、第2回以降の公募は実施しない方針です。
2025年度の募集要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
出典:国土交通省『令和8年度 住宅局関係 予算概算要求概要』/既存建築物省エネ化推進事業評価事務局『公募概要』
1-2.東京都既存非住宅省エネ改修促進事業補助金
東京都が推進するこの補助金は、都内の中小企業・社会福祉法人・医療法人・学校法人、個人事業主一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人、特定非営利活動法人などが所有する既存の非住宅建築物における、省エネ化のための診断・設計・改修にかかる費用の一部を支援する制度です。大企業は補助の対象になりません。
「高効率空調設備の導入」や「窓の断熱改修」「照明の高効率化」などが主な対象で、都が掲げる“カーボンハーフ(※)”の実現に向けた施策の一環として位置づけられています。改修だけでなく、事前の省エネ診断・省エネ設計の段階から補助を受けられる点が特徴です。
なお、補助対象となる非住宅は以下の要件をすべて満たす必要があります。
▼補助対象になる非住宅の要件
補助対象となる建築物は、次の①から③のすべて(省エネ改修の場合は①から④のすべて)を 満たす既存非住宅です。
①一戸建ての住宅、長屋、共同住宅、下宿若しくは寄宿舎以外の建築物又はその部分
②中小企業者等が都内で所有するもの
③延べ面積が10,000㎡以下であるもの
④耐震性が確保されているもの(改修後に耐震性が確保されるものを含む。)
引用元:東京都都市整備局『東京都既存非住宅省エネ改修促進事業補助金』
▼東京都既存非住宅省エネ改修促進事業補助金の概要
項目 | 内容 |
補助対象 |
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補助率 |
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補助上限額 |
※予算の範囲内で、補助率または上限額の低い額を補助します。 |
公募時期 | 2025年度は、2025年4月1日(火)~2026年3月31日まで申請可能(予算上限に達し次第終了) |
長期的な募集期間が設けられているため、中期的な改修計画にも組み込みやすいのが特徴です。
2025年度の募集要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
令和7年度 東京都既存非住宅省エネ改修促進事業補助金 募集要領
※カーボンハーフとは、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減するという東京都の目標のこと。
出典:東京都都市整備局『東京都既存非住宅省エネ改修促進事業補助金』『建物の省エネ化に関する補助金のご案内』
1-3.特別養護老人ホーム等整備費補助制度(大規模改修:空調設備更新)┃東京都
特別養護老人ホームや養護老人ホームなどで、老朽化した空調設備の更新に対し補助が受けられる制度です。令和7年度の新規・拡充事項として新設されました。
過去10年間(2025年度申請の場合、2015~2024年)に大規模改修を受けた施設のうち、空調設備を更新していない施設が法定耐用年数を超えた空調設備を更新する場合に限り補助対象となります。入居者の健康と快適性維持を目的に、施設の長寿命化を図ることができます。
▼特別養護老人ホーム等整備費補助制度の概要
項目 | 内容 |
補助対象 | 補助対象施設の空調設備の更新経費 |
補助率 | 対象経費の1/2 |
補助上限額 | 補助金上限:3,500万円/施設 |
公募時期 |
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都内施設では、更新計画の早期立案と書類準備が成功のカギとなります。
特別養護老人ホーム等施設整備費補助制度については、こちらのページをご確認ください。
出典:東京都福祉局『特別養護老人ホーム等整備費補助制度の概要』『令和7年度改修費補助に ついて』
2.ZEB化/CO2削減に活用できる補助金
介護施設の空調設備改修は、省エネだけでなくZEB化(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)への対応も求められています。特に近年は、建物全体のエネルギー使用を最小限に抑え、環境負荷を低減する取り組みが全国的に推進されています。
ここでは、介護施設がZEB化やCO2削減に向けて利用できる代表的な補助金制度を紹介します。
2-1.ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業┃環境省
この事業は、『建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業』の一環であり、業務用建築物等において脱炭素化を促進し、ZEB化・省CO2改修等の普及拡大を促すことを目的としています。既存・新築の建築物を対象に、空調・断熱・照明・制御設備などを組み合わせ、建物全体の省エネ化を支援します。
また、単なる空調更新ではなく、建物全体をエネルギーマネジメントの視点で最適化することを目的としており、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及を推進しています。
画像引用元:環境省『(1)ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業』
▼ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業の概要
※表内の補助率や上限額は、介護施設やホテル、病院、物品販売業を営む店舗、学校、飲食店、集会所などの「事業所等以外」の建築用途に適用されます。
項目 | 内容 |
補助対象 |
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補助率 |
※新築または既存、延べ面積によって割合が異なるため、詳細は2025年度の『実施要項』をご確認ください。
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補助上限額 |
※新築または既存、延べ面積によって上限額が異なるため、詳細は2025年度の『実施要項』をご確認ください。
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公募時期 | 2025年度は9月1日(月)~9月26日(金)に実施 |
ZEB化を実現すれば、エネルギーコスト削減だけでなく、補助金を通じて長期的な資産価値の向上にもつながります。
2025年度の実施要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
建築物等の ZEB 化・省 CO2 化普及加速事業 実施要領
出典:環境省『建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業』/一般社団法人静岡県環境資源協会『建築物等の ZEB 化・省 CO2 化普及加速事業 実施要領』
2-2.埼玉県民間事業者スマートCO2排出削減設備導入補助金
埼玉県内の中小企業者が、事業活動における地球温暖化対策の促進とエネルギーコストの抑制を図るため、高効率設備や再生可能エネルギー設備、およびEMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入に際して活用できる制度です。
この補助金は、高効率な設備への更新とともに、EMSを活用してエネルギー利用を計測・表示するだけでなく、監視、制御等を行い、スマートなエネルギー活用を図るシステムを導入することを目的としています。原則として、EMSは対象設備を自動制御する機能を有することが求められます。設備更新にとどまらず、運用改善による継続的な省エネ効果を支援するのが特徴です。
▼埼玉県民間事業者スマートCO2排出削減設備導入補助金の概要
項目 | 内容 |
補助対象 |
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補助率 |
※2025年度の情報にしており、補助率や補助上限額は年度や制度(例:令和6年度 CO₂排出削減設備導入補助金【緊急対策枠】)により変動することがあります。 |
補助上限額 |
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公募時期 |
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2026年度の実施は未定ですが、埼玉県の公式サイトを定期的に確認し、募集開始時期を逃さないようにしましょう。
2025年度の募集要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
令和7年度 埼玉県民間事業者 スマートCO2排出削減設備導入補助金
出典:埼玉県『埼玉県民間事業者スマートCO2排出削減設備導入補助金』
3.脱炭素・防災・熱中症対策に活用できる補助
近年、気候変動の影響による極端な気象現象が増加しており、特に介護施設においては、利用者の安全確保のため、熱中症対策や災害時の対応能力強化が喫緊の課題となっています。そういった課題に合わせた支援事業を紹介します。
3-1.省CO2化と災害・熱中症対策を同時実現する施設改修等支援事業┃環境省
既存の業務用建築物等に対し、省CO2化(省エネ)と熱中症・災害への適応強化(レジリエンス向上)を同時に進めるための環境省の補助金制度です。
既存の業務用建築物を改修する際に、高効率空調・換気設備・制御設備・断熱改修等を導入するための費用を補助します。これにより、平常時のエネルギー負荷低減と、非常時の安全確保・事業継続(クーリングシェルター機能やフェーズフリー性)の双方を実現できる点が大きな特徴です。
特に、クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)の普及を図るための高効率空調導入支援や、災害時の活動拠点としても利用可能な独立型施設(コンテナハウス等)への設備導入支援が含まれます。

画像引用元:環境省『省CO2化と災害・熱中症対策を同時実現する施設改修等支援事業』
▼省CO2化と災害・熱中症対策を同時実現する施設改修等支援事業の概要
項目 | 内容 |
補助対象 |
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補助率 | 対象経費の1/3 |
補助上限額 |
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公募時期 | 2025年度は6月23日(月)〜7月25日(金)、9月1日(月)~9月26日(金)に実施 |
2025年度の実施要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
建築物等の ZEB 化・省 CO2 化普及加速事業 実施要領
出典:環境省『省CO2化と災害・熱中症対策を同時実現する施設改修等支援事業』/一般社団法人静岡県環境資源協会『建築物等の ZEB 化・省 CO2 化普及加速事業 実施要領』
3-2.千葉県業務用設備等脱炭素化促進事業補助金
千葉県内の中小事業者が、高効率空調などの省エネ設備導入や省エネルギー診断の受診によって脱炭素化を図る際に活用できる補助金です。
特に老朽化した設備の更新を検討している施設にとっては、費用負担を軽減しつつ光熱費削減効果も得られる点が大きなメリットです。
▼千葉県業務用設備等脱炭素化促進事業補助金の概要
項目 | 内容 |
補助対象 |
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補助率 |
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補助上限額 |
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公募時期 | 【省エネルギー診断に基づく設備導入等にかかる交付申請】 |
2026年度の実施予定を含めた最新情報は、千葉県の公式サイトを定期的に確認し、申請時期を逃さないようにしましょう。
2025年度の募集要項については、こちらの資料でご確認いただけます。
出典:千葉県庁『令和7年度千葉県業務用設備等脱炭素化促進事業補助金』
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「空調設備導入に活用できる補助金と申請ステップを紹介」
4.空調関連の補助金を活用する際の注意点
補助金を活用すれば、空調設備の導入・改修にかかる初期費用を削減できます。
ただし、補助金は税金を原資とした公的支援制度であるため、申請から実績報告までに厳格な手続きと要件が設けられています。条件を誤ったり、手続きを省略したりすると、交付が取り消されたり、返還を求められるケースもあります。
補助金の効果を最大限に活かすためには、以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
▼補助金活用時の注意点
注意点 | 詳細 |
交付決定前に工事を開始しない | 多くの補助金では、交付決定通知を受ける前に契約・着工した経費は対象外。必ず正式決定後に着手。 |
建物全体での省エネ効果を意識 | 空調単体ではなく、断熱・LED照明などと組み合わせた「総合的な省エネ効果」が採択率向上のカギ。 |
省エネ・CO2削減データを提出 | 導入後、効果報告が義務付けられる場合が多い。計測・管理体制を事前に整えておくことが重要。 |
対象機器の性能基準を確認 | COP・APF・省エネラベルなど、要件を満たさない製品は補助対象外。公募要領を必ず確認。 |
専門事業者と連携する | 申請・報告は専門知識が必要。補助金制度に詳しい設備業者やコンサルタントとの連携が有効。 |
補助金は、単なる資金援助ではなく、施設の省エネ化・安全性向上・持続可能な運営基盤の構築を支援する仕組みです。制度のルールを理解し、信頼できるパートナーと連携することで、安定した申請・導入を実現できます。
5.介護施設の補助金活用をサポートしたTAKEUCHIの事例
実際にTAKEUCHIがサポートした介護施設『医療法人財団健康文化会 介護老人保健施設志村さつき苑』さまの事例を紹介します。
空調リニューアルと補助金活用を支援!入居者・職員の安全を最優先にした工事で夏の消費エネルギー17%削減を実現

▼課題
エアコンの老朽化と光熱費高騰により固定費が増加しており、初めての空調リニューアルと補助金申請の進め方に不安を抱えていました。
▼ご提案内容
ご入居者や職員の方々の日常生活への影響と安全性を最優先に、負担の少ない工事スケジュールをご提案。また、部屋ごとの利用目的に応じた最適機器を選定し、省エネを実現するプランを提示。補助金申請についても計画的な準備を伴走支援しました。
▼効果
夏季のエネルギー消費を17%削減。補助金活用により導入コストを抑えつつ、冷房効率も向上し、高い評価をいただきました。
補助金活用は、費用の問題だけでなく、施設の価値向上にも直結します。ぜひ、専門家の知見を借りて、改修計画を進めてください。
6.まとめ
この記事では、介護施設に空調設備を導入する際に活用できる補助金について以下の内容を解説しました。
エネ・設備改修に活用できる補助金
ZEB/省CO2化に活用できる補助金
脱炭素・防災・熱中症対策に活用できる補助
空調関連の補助金を活用する際の注意点
介護施設の補助金活用をサポートしたTAKEUCHIの事例
補助金制度は年度ごとに内容が変更されたり、公募時期が限られたりするため、常に最新情報を確認し、計画的な準備を進めることが重要です。
また、複雑な申請手続きや厳格なルールを遵守するためには、専門知識を持つパートナーとの連携が不可欠です。空調設備の更新は、施設の快適性向上、ランニングコスト削減、そして社会的責任の履行に直結する重要な経営判断です。
TAKEUCHIでは、業務用エアコンの導入設計から施工、保守メンテナンス、補助金に関する内容までトータルサポートしています。施設の特徴や使用環境に合わせた空調設計をプランニングいたします。




