
ZEBとは。建物の省エネ・創エネ・見える化でカーボンニュートラルを目指すには
現在、地球温暖化や環境汚染、資源・エネルギー問題といった地球規模のさまざまな問題への対応が世界全体の課題となっています。
日本においても持続可能な社会の実現を目指すために、『SDGs(Sustainable Development Goal:持続可能な開発目標)』や『2050年カーボンニュートラル』の達成に向けた取り組みへの機運が高まっています。
そうしたなか建築物の分野で推進されているのが“ZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)”です。
この記事では、ビル・施設を管理する担当者が知っておきたいZEBの基礎知識や取り組みのポイント、得られるメリットなどについて解説します。
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目次[非表示]
1.ZEBとは
ZEBとは、建物の中で消費する年間の一次エネルギー収支を実質的にゼロにすることを目指した建物のことです。
経済産業省の資源エネルギー庁が作成した『ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ』では、以下のように定義されています。
▼ZEBの定義
先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制やパッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物
引用元:経済産業省 資源エネルギー庁『ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ』
建築物における一次エネルギーとは、建物で使用する空調設備や機械換気設備、照明設備、給湯設備などによって消費するエネルギーを指します。
ZEBが推進される背景には、住宅・建築物に対するエネルギー消費量の増加やエネルギー価格の不安定化などにより、建築物の省エネ化とエネルギー自給を実現する必要性が高まっていることが挙げられます。
これを受けて政府は、エネルギー需給の改善に向け、エネルギー基本計画で『2030年までに温室効果ガス排出量の46%削減(2013年度比)』や『2050年カーボンニュートラル』を目標に掲げており、その一環としてZEBの達成が求められてます。
出典:環境省『ZEBの定義』/経済産業省 資源エネルギー庁『ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ』『エネルギー基本計画の概要』
2.ZEBには4つの段階がある
ZEBの取り組みは、目標の達成状況に応じて4つの段階に分けられています。それぞれ一次エネルギー消費量の削減率(※)に関する基準が異なります。
※建築物全体評価において従来の建築物のエネルギーを100%とした場合の削減率
▼ZEBの4段階
画像引用元:環境省『ZEBの定義』
各建築物の定義や一次エネルギー消費量の削減率(以下、削減率)について解説します。
▼ZEB(ゼブ)
年間の一次エネルギー消費量が実質ゼロまたはマイナスとなる建築物です。省エネで50%以上、創エネを含んで100%以上の削減率を達成することが求められます。
▼Nearly ZEB(ニアリーゼブ)
限りなくZEBに近い建築物を指します。省エネで50%、創エネで75%以上の削減率を達成することが求められます。
▼ZEB Ready(ゼブレディ)
外皮の高断熱化や高効率な省エネ設備を導入したZEBを見据えた建築物です。再生可能エネルギーを除き、省エネによる削減率が50%以上と定められています。
ZEB Readyを見据え、外皮の高断熱化や高効率な省エネ設備を導入した建築物です。建物の用途によって削減率が30または40%以上と定められています。
出典:環境省『ZEBの定義』/経済産業省 資源エネルギー省『改修ZEB事例集』
3.ZEBを実現する3つのステップ
ビルや施設のZEBを推進する際は、省エネ・創エネ・見える化を組み合わせることによって4つの段階ごとの目標に合わせた取り組みが可能になります。
3-1.ステップ1|省エネ(エネルギーの最小化)
ビルや施設の快適性を保ちながら、エネルギー消費量を減らします。
空調設備・照明設備・給湯設備などの使用時間・頻度を削減したり、エネルギー効率のよい省エネ機器を導入したりする方法があります。
▼省エネの取り組み例
- 高効率空調・LED照明・人感センサーなどの省エネ機器の導入
- 壁や窓の高断熱化・高気密化による空調負荷の低減
- 窓の日射遮蔽による空調負荷の低減
- 自然光・自然通風を取り入れた“パッシブ設計”の導入 など
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3-2.ステップ2|創エネ(エネルギーの創出)
省エネに取り組みつつ、建物内で新たにエネルギーを創出できるようにします。
再生可能エネルギーを活用できる設備の導入に加えて、蓄電池を併用して創出したエネルギーの自家消費率を高めることがポイントです。
▼創エネを実現する技術の例
創エネの技術・設備 |
仕組み |
太陽光発電システム |
屋上や屋根に設置したパネルで吸収した太陽光エネルギーを電気に変換して発電する |
バイオマス熱利用 |
生ごみや廃材などのバイオマス資源の焼却時に発生する排熱をエネルギーに使用する |
3-3.ステップ3|見える化(エネルギー管理の最適化)
建物におけるエネルギー消費量を見える化する環境を整備します。
各設備のエネルギー消費状況を把握することで、ZEB達成のための目標値と実測値との差異を比較して、最適な運用に向けた改善策を検討できます。
建物のエネルギー管理に役立つシステムに“BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)”があります。BEMSの導入により、建物内のエネルギー使用状況や設備の稼働状況を見える化して自動制御・分析を行えるため、稼働の最適化を図れます。
BEMSの詳細についてはこちらの記事で解説しています。
4.ZEBの実現によって得られるメリット
ZEBに取り組むことは、環境負荷の低減に貢献するだけでなくさまざまなメリットがあります。
▼光熱費の削減
省エネ+創エネによってエネルギー消費量を削減することにより、建物の運用に伴う光熱費の負担を抑えられます。
▼快適性・健康性の向上
建物の高断熱化・高気密化により、冷暖房効率や換気効率の向上につながり、快適な温度と空気環境を維持できます。室内環境の快適性が高まると、健康性の向上にも貢献します。
▼BCP(事業継続計画)対応
太陽光発電や蓄電池などを活用してエネルギーの自立度が高まると、災害時にライフラインが停止した場合でも、復旧までの間に最低限の設備機能を維持できます。
▼企業イメージの向上
SDGsやESG(※)が重視される今、ZEBの達成を目指して省エネや脱炭素化に取り組むことはステークホルダーからの信頼につながり、企業価値の向上へと結びつきます。
※環境・社会・企業統治の観点を考慮した経営の在り方や投資活動のこと
5.ZEB化の取り組みには国の補助金や支援制度の活用を
ZEB化の取り組みには、高効率設備や制御システムの導入、断熱改修などに費用が必要となります。事業者のZEB化を後押しするために、国によって補助金制度が設けられています。
▼ZEBに関する主な補助・支援制度
制度 |
運営元 |
概要 |
ZEB実証事業 |
経済産業省・SII |
民間の大規模建築物での先進的な技術を用いたZEB化の実証を支援する事業 |
省エネルギー投資促進支援事業費補助金 |
経済産業省・SII |
工場や事業場の省エネルギー投資を支援する補助金制度 |
これらの補助金制度は、ZEB化の設計段階から申請が必要になるため、早めに専門家や施工会社に相談することがポイントです。
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「空調設備導入に活用できる補助金と申請ステップを紹介」
出典:経済産業省 資源エネルギー省『省エネルギー投資促進に向けた支援補助金』
6.まとめ
この記事では、ZEBについて以下の内容を解説しました。
- ZEBの概要
- ZEBの4つの段階
- ZEBを実現する3つのステップ
- ZEBの実現によって得られるメリット
- ZEB化の取り組みに関する補助金や支援制度
エネルギー基本計画で定められた2030年目標や2050年カーボンニュートラルを達成するために、建築物のZEB化が推進されています。
ZEBに取り組む際は、省エネ・創エネ・見える化といった3つのステップを組み合わせて、エネルギー消費量の削減率目標を段階的に達成していくことが重要です。
TAKEUCHIでは、学校や介護施設、工場、オフィスなどの施設における空調設備のリニューアルをトータルサポートしております。建物の省エネやZEBの達成を目指した空調設計をご提案いたします。