
新冷媒R32とは。従来冷媒(R410A)との違いや移行の背景、導入・運用の注意点を解説
※2026年5月20日更新
業務用エアコンの冷媒として主流だったR410Aに代わり、低GWP(地球温暖化係数)冷媒である“R32”の普及が進んでいます。
2025年以降は、業務用エアコンにおいて低GWP冷媒の採用が実質的に必須となるなど、法令や国際的な取り決めにより、新冷媒への移行は不可避の流れとなっています。
一方で、新冷媒への切り替えは単純な設備更新では済まないケースもあります。機種によっては設置条件や安全基準への対応が必要となり、更新時期や建物条件によって導入コスト・運用計画にも影響をおよぼします。
そのため、R32への移行は機器の更新にとどまらず、投資回収期間や建築上の条件、さらには将来的な規制強化リスクまで見据えた“経営判断”として検討することが重要です。
この記事では、新冷媒R32の特徴や従来のR410Aから移行する背景に加え、医療福祉・教育施設・工場・オフィスなどの施設管理者が押さえておくべき導入判断や施工・運用のポイントを解説します。
なお、空調設備の管理や点検に関する基本的な知識については、こちらの資料にまとめています。ぜひご活用ください。
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「設備管理者が知っておきたい法定点検の基本知識」
目次[非表示]
1.新冷媒のR32とは
新冷媒のR32とは、オゾン層破壊物質が含まれておらず、地球温暖化に影響を与える温室効果の程度が従来のR410Aよりも低い代替フロンの一種です。
業務用エアコンの冷媒に用いられるフロン類は、これまで特定フロンから代替フロンへの転換が行われてきました。
▼フロン類の転換
特定フロン(CFC、HCFC) | 代替フロン(HFC) | |
オゾン層破壊効果 | あり | なし |
温室効果 | 高い | 高い |
2020年には、オゾン層を破壊する性質を持つ特定フロンが先進国で全廃となり、日本においては代替物質として代替フロンへの転換がほぼ完了しています。
一方で、代替フロンにはオゾン層破壊物質は含まれないものの、CO2(二酸化炭素)と比較して数十倍から一万倍以上の大きな温室効果があります。
▼フロン対策の方向性
画像引用元:環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
そこで、今後は高い温室効果を持つ代替フロンから、温室効果の小さい“グリーン冷媒”への転換が求められており、グリーン冷媒の一つである新冷媒“R32”が登場しました。
出典:環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2.業務用エアコンの冷媒がR410AからR32に移行する理由
業務用エアコンの各メーカーでは、代替フロンの主流となるR410Aから、より温室効果の低いR32への冷媒転換が進められています。
その理由には、オゾン層保護法・フロン排出抑制法に基づき、代替フロンの生産・消費量を削減する施策が政府によって推進されていることが関係しています。
2-1.オゾン層保護法に基づく代替フロンの排出抑制
2016年10月、オゾン層保護を目的とした国際環境条約“モントリオール議定書”の改定(通称、キガリ改定)が行われ、代替フロンの生産・消費量を段階的に削減する義務が課せられました。
これを受けて日本では、2018年6月にオゾン層保護法の改正を行い、2019年1月から代替フロンに対する製造・輸入の規制を開始しています。キガリ改定の消費量限度を下回る基準で、代替フロンの生産・消費量を削減する目標が掲げられています。
▼日本における代替フロン削減の目標
画像引用元:環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2019年の4,754万t-CO2に対して、2025年には40%、2030年には70%の削減目標が掲げられています。2026年現在、すでに40%削減(2024年〜)の規制フェーズに入っており、国内市場に供給される代替フロンの総量は物理的に制限されています。
これにより、従来のR410AなどGWPが高い冷媒は、将来的な供給不足や価格高騰の懸念が強まっており、製造事業者および設備管理者には、温室効果を低減する新冷媒への速やかな転換が求められています。
出典:環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2-2.フロン排出抑制法に基づく環境影響度の低減
フロン排出抑制法における「指定製品制度」により、エアコンの製造事業者には、フロン類を使用しない製品やGWPの低い冷媒を用いた製品への転換が義務付けられています。
▼指定製品制度のイメージ図
画像引用元:経済産業省『指定製品制度について』
近年、代替フロンの排出量が長期的に見て増加傾向にあり、特にエアコンの冷媒用途としての排出量が全体の9割以上を占めています。
▼代替フロン(HFCs)の排出量と用途別の内訳(CO2換算)
画像引用元:環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
フロン排出抑制法では、代替フロンによる環境影響度の低減を図ることを目的に、エアコン製品に対するGWP(地球温暖化係数)(※)の目標が定められています。
▼店舗・オフィス用エアコンにおけるGWPの目標値
画像引用元:経済産業省『エアコンディショナーの製造業者等の判断の基準となるべき事』
2025年には、広く普及しているビル用マルチエアコンやターボ冷凍機が指定製品の目標達成年度を迎えます。それに加え、新たにガスヒートポンプエアコン(GHP)なども2027年4月から低GWP冷媒への転換が義務付けられることになりました。
そのため、従来のR410Aから、GWPが約3分1と低くエネルギー効率も高いR32といった新冷媒への移行が各メーカーによって推進されています。
※GWP(地球温暖化係数):CO2を基準(1)とした温室効果の程度。フロン排出抑制法に基づく指定製品の環境影響度を示す指標にも用いられます。
出典:経済産業省『指定製品制度について』『エアコンディショナーの製造業者等の判断の基準となるべき事』/環境省『令和5年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
3.R32移行は環境対応ではなく“経営判断”
R32への切り替えは、設備の更新や環境への配慮という枠組みを超え、投資回収、調達戦略、将来の規制リスクまでを含めて考えるべき経営課題です。
学校や医療機関、工場など、設備投資の規模が大きい施設においては、中長期的な視点で施設管理や設備更新を判断することが重要になります。
3-1.中長期の“冷媒再移行リスク”をどう考えるか
R32は現時点で有力な低GWP冷媒として普及していますが、将来的には地球温暖化対策の一環としてさらに規制が強化される可能性も否定できません。
業務用エアコンの法定耐用年数は15年と長期にわたります。設備の償却年数と規制強化のスケジュールにズレが生じた場合、投資を回収する前にさらなる低GWP冷媒への再移行を迫られるリスクも視野に入れておく必要があります。
▼チェックリスト
☐ R32は「最終解」ではなく過渡期冷媒である可能性を織り込んでいるか
☐ 将来、微燃性(A2L)冷媒からさらに低GWPの自然冷媒等へ再移行する際の二重投資リスクを想定しているか
☐ 設備償却年数と冷媒規制強化のタイミングが乖離していないか
☐ 仮に10年以内に再度の設備投資が必要になった場合でも、事業として許容できるか
3-2.調達・購買戦略への影響
R32対応機器は主要な空調メーカーから幅広く展開されていますが、メーカーによって対応している機種のラインナップや馬力帯には差があります。
価格競争力や納期、供給の安定性を確保するためには、特定のメーカーに過度に依存することを避け、複数の選択肢を比較検討することが重要です。
▼チェックリスト
☐ R32対応機器のメーカー選択肢が限定されるリスクを理解しているか
☐ 価格競争力や納期、部品の供給安定性に影響が出ないか
☐ マルチメーカーでの調達が可能か、それとも特定メーカーへの依存になるか
☐ 特定メーカーに依存した場合の価格交渉力低下を許容できるか
4.新冷媒のR32が持つ3つの特徴
新冷媒のR32は、従来のR410Aと比較して地球環境への負荷が低いほか、エネルギー効率や作業性に優れています。
4-1.特徴1|GWPが低い
R32は、R410Aよりも温室効果の程度を示すGWPが低く、代替フロンの生産・消費による地球温暖化への影響を抑えることが可能です。
▼冷媒におけるGWPの比較
R410A | R32 |
2,090 | 675 |
R32のGWPは、R410Aの約3分の1程度となっており、フロン排出抑制法におけるビル用マルチエアコンに対する環境影響度の目標値となる750を達成できます。
出典:環境省『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
4-2.特徴2|エネルギー消費効率が高い
一般的な業務用エアコンでは、冷媒の圧縮・凝縮・膨張・蒸発を繰り返して冷風を作り出す蒸気圧縮式の冷凍サイクルが採用されています。
R32は、この冷凍サイクルで蒸発する際に周囲から奪う熱量(蒸発潜熱)が大きいことから、少量の冷媒でも効率的に冷却を行える特徴があります。R410Aと比べてエネルギー消費効率が高くなるため、電力使用量の削減につながります。
4-3.特徴3|単一冷媒で追加充填を行える
従来のR410Aでは、冷媒に混合ガスが使用されています。そのため、2種類の冷媒がどのくらい残っているか判別が難しく、充填の際にはすべての冷媒を回収する必要がありました。
一方のR32は、単一のガスが封入されているため、冷媒の追加充填を行いやすく経済的にも優れています。
5.R32対応は機器交換だけではない|施工・運用で押さえるポイント
R32は優れた環境性能と省エネ性を持ちますが、「微燃性(A2L)」という特性を有しています。そのため、従来の機器を入れ替えるだけでは不十分であり、設計・施工・運用の各段階で安全対策や建築条件の確認が必要です。
実際には、機器交換のみで計画した場合、追加工事や安全対策により当初想定を超えるコストが発生し、投資計画に影響をおよぼすケースもあります。
5-1.設計・施工フェーズでは安全基準の再確認が必須
R32を導入する際は、施設の建築条件に照らし合わせて、冷媒の充填量制限や換気・区画条件を再計算する必要があります。
特に、万が一冷媒が漏えいした場合に、室内濃度が燃焼下限界(LFL)の4分の1以下に収まるよう設計するなど、厳格な安全基準に基づいた検討が求められます。
また、リニューアル時に既存の配管を流用できるケースもありますが、肉厚や耐圧などの条件を満たさない場合は、ガス漏れや故障の重大なリスクにつながるため、事前の状態確認と専門的な判断が不可欠です。
▼チェックポイント
☐ 冷媒量制限(充填量)を部屋の広さなどの建築条件に照らして再計算しているか
☐ 機械室や天井内の区画条件・換気条件はR32の安全基準を満たしているか
☐ 既存配管が流用不可となり、新規配管工事が必要になるケースを想定しているか
☐ 追加の安全対策や工事費用が発生しても、当初想定の投資計画内に収まるか
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「設備管理者が知っておきたい法定点検の基本知識」
5-2.不動産価値・BCPへの影響
R32は微燃性であるため、部屋の広さや設置条件によっては、冷媒の漏えい検知警報器や遮断弁といった追加の安全設備の設置が必要となる場合があります。これにより、センサーの設置位置や運用ルールが従来と変わる可能性があります。
これらの安全対策は、停電復旧時のシステム再起動や災害時の対応にも影響を与えるため、施設のBCP(事業継続計画)にしっかりと反映させておくことが重要です。
また、将来的な冷媒規制の変化による設備の陳腐化リスクや、安全設備の設置がテナント誘致・不動産価値に与える影響も、長期的な視点で踏まえて検討する必要があります。
▼チェックポイント
☐ R32設備の導入や安全対策が、テナントの誘致や契約更新の判断に悪影響を及ぼさないか
☐ 将来、別の冷媒が主流化した際に陳腐化リスクを抱えないか
☐ 災害時や停電復旧時の運用プロセスにおいて、新たな制約が増えないか
6.新冷媒のR32を使った業務用エアコンのおすすめ機種
ここからは、学校・介護施設・工場・オフィスなどに設置できるR32の冷媒を使った業務用エアコンのおすすめ機種を紹介します。
6-1.ダイキン|FIVE STAR ZEAS
『FIVE STAR ZEAS』は、業界トップクラスの省エネ性能を実現した業務用エアコン“スカイエアシリーズ”のハイグレードモデルです。新機種に更新することで最大約63%(※)の省エネが期待できます。
▼FIVE STAR ZEASの特徴
独自の冷媒冷却方式により高外気温時でもパワフルな冷房能力を維持
通常の冷房運転時と比較して約2倍の除湿冷房が可能
季節に応じてもっとも効率よく運転できる冷媒温度を自動で制御
人検知センサーと床温度センサーで快適性と省エネを確保
※15年前のインバーター機(SYCP112AB、2008年発売)と新機種(SSRC112C)との比較。
参考:ダイキン『FIVE STAR ZEAS』
6-2.三菱電機|グランマルチ
『グランマルチ』は、冷媒R32と新型の熱交換器・ファンを搭載した新構造のビル用マルチエアコンです。建物のエネルギー効率を示すBEI値(※)の改善により、環境負荷の低減に貢献しています。
▼グランマルチの特徴
鉛直アルミ扁平管熱交換器の搭載で冷暖平均定格COPが向上
空気抵抗を抑制した新形状のファンで運転音を低減
ユニット接続可能容量の拡大による設計自由度の向上
AIによる予冷予熱運転の起動時刻設定でデマンド値を抑制
※BEI(Building Energy Index)とは、国が定めるエネルギー消費量の基準値を1とした場合に、建築物のエネルギー消費量の程度を示す指標。
参考:三菱電機『グランマルチ』
6-3.Panasonic|XEPHY Premium
『XEPHY Premium』は、筐体や各要素技術の最適化によって全機種で高い省エネ性を実現した店舗・オフィス向けのエアコンです。R32の冷媒特性に合わせた新開発の熱交換器を搭載することで熱伝達率を向上しています。
▼XEPHY Premiumの特徴
新翼断面形状のファンで静音性と熱交換率を向上
圧縮機の動きを滑らかにする技術により変換ロスを低減
震度7クラスの地震や風速60m/秒の風圧に耐える耐震・耐風設計
冷房時に最大52°C、暖房時にマイナス20℃の外気温まで冷暖房が可能
なお、省エネ効果の高いエアコンを選定するポイントはこちらの資料で解説しています。併せてご確認ください。
7.R32導入では補助金活用も重要
R32を採用した高効率な業務用エアコンへの更新には、国や自治体の補助金制度を活用できるケースが多くあります。
例えば、経済産業省の『省エネルギー投資促進支援事業費補助金』では、省エネ性能に優れた空調設備の導入費用の最大3分の1が補助されます。ほかにも、環境省の『脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業(SHIFT事業)』や、東京都などの各自治体が独自に設けている脱炭素・省エネ推進補助金なども活用可能です。
補助金の申請には、事前の省エネ診断や、詳細な計画書、省エネ効果の算定データの提出が求められます。原則として交付決定前に工事契約を結ぶことはできないため、設備更新のタイミングと申請スケジュールをしっかりと合わせて計画することが重要です。
煩雑な申請手続きやスケジュール管理に不安がある場合は、専門の空調事業者に相談しながら進めることをおすすめします。
→【おすすめ!】記事と合わせて読みたい「空調設備導入に活用できる補助金と申請ステップを紹介」
8.まとめ
本記事では、新冷媒R32について以下の内容を解説しました。
新冷媒のR32とは
業務用エアコンの冷媒がR410AからR32に移行する理由
新冷媒のR32が持つ3つの特徴
R32対応は機器交換だけではない|施工・運用で押さえるポイント
新冷媒のR32を使った業務用エアコンのおすすめ機種
R32はGWP 675と、従来のR410Aの約3分の1の環境負荷であり、エネルギー効率も高いためランニングコスト削減に寄与します。
R32への移行は単なる環境対応ではなく、設備の償却年数や調達戦略、将来の冷媒規制リスクまでを含めた“経営判断”として検討する必要があります。導入時には国や自治体の補助金制度を積極的に活用することで、コスト負担を軽減できます。
TAKEUCHIでは、医療福祉施設や学校、工場、オフィスなど、多岐にわたる施設の空調設備リニューアルをトータルでサポートしております。施設ごとの課題に応じたR32対応機器の選定から、気流シミュレーションを用いた快適な設計、補助金の申請支援までお任せください。
設備更新や空調管理でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。






