新冷媒R32とは。その特徴や従来のR410Aから移行する理由について
業務用エアコンの冷媒として現在広く使用されているフロン類は、地球温暖化に影響をもたらす高い温室効果を有しています。
世界全体で地球温暖化に関する対策の重要性が高まるなか、温室効果の低い代替フロンへの転換や、自然冷媒を使用したグリーン冷媒への転換が進められています。そこで新たに普及が進んでいる冷媒が“R32”です。
この記事では、従来のR410AからR32に移行する理由や新冷媒R32の特徴、R32を使った業務用エアコンを導入する注意点、おすすめの機種について解説します。
なお、業務用エアコンのリニューアルに活用できる補助金については、こちらの資料にまとめています。
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目次[非表示]
1.新冷媒のR32とは
新冷媒のR32とは、オゾン層破壊物質が含まれておらず、地球温暖化に影響を与える温室効果の程度が従来のR410Aよりも低い代替フロンの一種です。
業務用エアコンの冷媒に用いられるフロン類は、これまで特定フロンから代替フロンへの転換が行われてきました。
▼フロン類の転換
特定フロン
(CFC、HCFC)
|
代替フロン
(HFC)
|
|
オゾン層破壊効果 |
あり |
なし |
温室効果 |
高い |
高い |
2020年には、オゾン層を破壊する性質を持つ特定フロンが先進国で全廃となり、日本においては代替物質として代替フロンへの転換がほぼ完了しています。
一方で、代替フロンにはオゾン層破壊物質は含まれないものの、CO2(二酸化炭素)と比較して数十倍から一万倍以上の大きな温室効果があります。
2050年カーボンニュートラル(※)や2030年度の温室効果ガス46%削減を実現するには、代替フロンが持つ温室効果の低減が求められることから、環境負荷を抑えられる新冷媒のR32が登場しました。
※温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて、実質的な排出量を全体としてゼロにすること。
出典:環境省『カーボンニュートラルとは』『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2.業務用エアコンの冷媒がR410AからR32に移行する理由
業務用エアコンの各メーカーでは、代替フロンの主流となるR410Aから、より温室効果の低いR32への冷媒転換が進められています。
その理由には、オゾン層保護法・フロン排出抑制法に基づき、代替フロンの生産・消費量を削減する施策が政府によって推進されていることが関係しています。
2-1.オゾン層保護法に基づく代替フロンの排出抑制
2016年10月、オゾン層保護を目的とした国際環境条約“モントリオール議定書”の改定(通称、キガリ改定)が行われ、代替フロンの生産・消費量を段階的に削減する義務が課せられました。
これを受けて日本では、2018年6月にオゾン層保護法の改正を行い、2019年1月から代替フロンに対する製造・輸入の規制を開始しています。キガリ改定の消費量限度を下回る基準で、代替フロンの生産・消費量を削減する目標が掲げられています。
▼日本における代替フロン削減の目標
画像引用元:環境省『令和4年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2019年の4,754万t-CO2に対して、2025年には40%、2030年には70%の削減目標が掲げられています。代替フロン製品の製造事業者には、温室効果を低減する新冷媒への転換や、代替フロンを使用しないグリーン冷媒の開発が求められています。
出典:環境省『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』『令和4年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
2-2.フロン排出抑制法に基づく環境影響度の低減
フロン排出抑制法では、エアコンの製造事業者に対してフロン類を使用しない製品や温室効果の低い冷媒を用いた製品開発に努めることが定められています。
近年、代替フロンの排出量が長期的に見て増加傾向にあり、特にエアコンの冷媒用途としての排出量が全体の9割以上を占めています。
▼【2022年時点】代替フロン(HFCs)の排出量と用途別の内訳(CO2換算)
画像引用元:環境省『令和4年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
フロン排出抑制法では、代替フロンによる環境影響度の低減を図ることを目的に、エアコン製品に対するGWP(地球温暖化係数)(※)の目標が定められています。
▼店舗・オフィス用エアコンにおけるGWPの目標値
指定製品 |
GWPの目標値 |
目標達成年度 |
1.床置き型を除き、法定冷凍能力が3トン未満のもの |
750 |
2020 |
2.床置き型を除き、法定冷凍能力が3トン以上かつ3を除くもの |
750 |
2023 |
3.中央方式エアコンディショナーのうちターボ冷凍機を用いるもの |
100 |
2025 |
4.ビル用マルチエアコンディショナー |
750 |
2025 |
環境省『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』を基に作成
2025年には、広く普及しているビル用マルチエアコンも指定製品に含まれるため、R410AよりもGWPが低いR32への移行が各メーカーによって推進されています。
※CO2を基準とした温室効果の程度。フロン排出抑制法に基づく指定製品の環境影響度を示す指標にも用いられる。
出典:環境省『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』『令和4年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』/経済産業省『エアコンディショナーの製造業者等の判断の基準となるべき事項』
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3.新冷媒のR32が持つ3つの特徴
新冷媒のR32は、従来のR410Aと比較して地球環境への負荷が低いほか、エネルギー効率や作業性に優れています。
3-1.特徴1|GWPが低い
R32は、R410Aよりも温室効果の程度を示すGWPが低く、代替フロンの生産・消費による地球温暖化への影響を抑えることが可能です。
▼冷媒におけるGWPの比較
R410A |
R32 |
2,090 |
675 |
R32のGWPは、R410Aの約3分の1程度となっており、フロン排出抑制法におけるビル用マルチエアコンに対する環境影響度の目標値となる750を達成できます。
出典:環境省『令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会』
3-2.特徴2|エネルギー消費効率が高い
一般的な業務用エアコンでは、冷媒の圧縮・凝縮・膨張・蒸発を繰り返して冷風を作り出す蒸気圧縮式の冷凍サイクルが採用されています。
R32は、この冷凍サイクルで蒸発する際に周囲から奪う熱量(蒸発潜熱)が大きいことから、少量の冷媒でも効率的に冷却を行える特徴があります。R410Aと比べてエネルギー消費効率が高くなるため、電力使用量の削減につながります。
3-3.特徴3|単一冷媒で追加充填を行える
従来のR410Aでは、冷媒に混合ガスが使用されています。そのため、2種類の冷媒がどのくらい残っているか判別が難しく、充填の際にはすべての冷媒を回収する必要がありました。
一方のR32は、単一のガスが封入されているため、冷媒の追加充填を行いやすく経済的にも優れています。
4.R32の冷媒を使用する業務用エアコン導入時の注意点
R32の冷媒を使用する業務用エアコンを導入する際は、取り扱いへの配慮やコストについて確認しておく必要があります。
▼注意点
- 冷媒に微燃性がある
- 本体費・施工費が高くなりやすい
R32は、冷媒の着火濃度が高く、燃焼を引き起こす着火源は少ないとされています。しかし、微燃性を有するため、取り扱いには十分に注意するとともに、ガスが漏えいした場合に燃焼を防止する対策を講じることが重要です。
また、高い圧力に対応できる仕様に施工する必要があるため、リニューアルを行う際に従来機よりもコストが高くなる可能性があります。
5.新冷媒のR32を使った業務用エアコンのおすすめ機種
ここからは、学校・介護施設・工場・オフィスなどに設置できるR32の冷媒を使った業務用エアコンのおすすめ機種を紹介します。
5-1.ダイキン|FIVE STAR ZEAS
『FIVE STAR ZEAS』は、業界トップクラスの省エネ性能を実現した業務用エアコン“スカイエアシリーズ”のハイグレードモデルです。新機種に更新することで最大約63%(※)の省エネが期待できます。
▼FIVE STAR ZEASの特徴
- 独自の冷媒冷却方式により高外気温時でもパワフルな冷房能力を維持
- 通常の冷房運転時と比較して約2倍の除湿冷房が可能
- 季節に応じてもっとも効率よく運転できる冷媒温度を自動で制御
- 人検知センサーと床温度センサーで快適性と省エネを確保
※15年前のインバーター機(SYCP112AB、2008年発売)と新機種(SSRC112C)との比較。
参考:ダイキン『FIVE STAR ZEAS』
5-2.三菱電機|グランマルチ
『グランマルチ』は、冷媒R32と新型の熱交換器・ファンを搭載した新構造のビル用マルチエアコンです。建物のエネルギー効率を示すBEI値(※)の改善により、環境負荷の低減に貢献しています。
▼グランマルチの特徴
- 鉛直アルミ扁平管熱交換器の搭載で冷暖平均定格COPが向上
- 空気抵抗を抑制した新形状のファンで運転音を低減
- ユニット接続可能容量の拡大による設計自由度の向上
- AIによる予冷予熱運転の起動時刻設定でデマンド値を抑制
※BEI(Building Energy Index)とは、国が定めるエネルギー消費量の基準値を1とした場合に、建築物のエネルギー消費量の程度を示す指標。
参考:三菱電機『グランマルチ』
5-3.Panasonic|XEPHY Premium
『XEPHY Premium』は、筐体や各要素技術の最適化によって全機種で高い省エネ性を実現した店舗・オフィス向けのエアコンです。R32の冷媒特性に合わせた新開発の熱交換器を搭載することで熱伝達率を向上しています。
▼XEPHY Premiumの特徴
- 新翼断面形状のファンで静音性と熱交換率を向上
- 圧縮機の動きを滑らかにする技術により変換ロスを低減
- 震度7クラスの地震や風速60m/秒の風圧に耐える耐震・耐風設計
- 冷房時に最大52°C、暖房時にマイナス20℃の外気温まで冷暖房が可能
なお、省エネ効果の高いエアコンを選定するポイントはこちらの資料で解説しています。併せてご確認ください。
参考:Panasonic『XEPHY Premium』
6.まとめ
この記事では、冷媒R32について以下の内容を解説しました。
- 新冷媒R31の概要
- 冷媒がR410AからR32に移行する理由
- 新冷媒R32が持つ3つの特徴
- 冷媒R32を使用する業務用エアコン導入時の注意点
- 冷媒R32を使った業務用エアコンのおすすめ機種
新冷媒のR32は、従来のR410Aと比較して代替フロンによるGWPが低く、地球環境への影響を低減することが可能です。これから業務用エアコンのリニューアルを行う方は、環境保護に貢献するR32の冷媒を採用した機種がおすすめです。
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