学校における空調の設置状況と必要性。新設やリニューアルを行う際の課題とは
日本の平均気温は長期的に見て上昇傾向にあり、1990年以降は平均気温との気温偏差が大きく、高温な年が続いています。特に近年では、夏場での記録的な高温が見られており、熱中症が社会的な問題となっています。
▼日本の年平均気温
画像引用元:気象庁『日本の年平均気温』
学校においては、夏場の熱中症を予防するとともに、生徒や教員が快適に過ごせる施設環境を維持するために、空調設備を用いた温度管理が求められます。
学校法人の施設課や営繕課の担当者のなかには、「学校での空調の設置状況はどうなっているのか」「空調の導入またはリニューアルを行う際にどのような課題があるのか」などと気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、学校における空調の設置状況と必要性、導入課題について解説します。
出典:気象庁『日本の年平均気温』
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目次[非表示]
- 1.学校における空調の設置状況
- 2.学校に空調を設置する必要性
- 2.1.学習に集中しやすい環境をつくる
- 2.2.高温・低温による体調不良を防ぐ
- 2.3.授業を計画に沿って進行する
- 2.4.災害時の避難先として活用する
- 3.学校の空調設置における課題
- 4.まとめ
学校における空調の設置状況
文部科学省が発表した『令和4年度 公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況』によると、公立学校での空調の設置率は上昇傾向にあります。
▼公立小中学校の空調(冷房)設備の設置率
画像引用元:文部科学省『公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況について』
2022年9月1日時点における空調の設置率は、小中学校・高等学校の普通教室で約95%となっており、寒冷とされる地域を除いておおむね設置が完了しています。
▼学校における空調設置率
小中学校 |
高等学校 |
|
普通教室 |
95.7% |
94.1% |
特別教室 |
61.4% |
53.0% |
体育館等 |
11.9% |
8.1% |
文部科学省『公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況について』を基に作成
一方で、特別教室と体育館は空調の設置率が高いとはいえず、体育館については小中学校で11.9%、高等学校で8.1%にとどまっていることが現状です。
学校法人が運営する私立学校においても、生徒の利用頻度が高い普通教室を優先して空調の設置を進めているケースがあります。生徒が快適かつ安心して過ごせる教育環境へと改善を図るには、特別教室や体育館などにも空調の設置を進めることが重要です。
出典:文部科学省『公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況について』
学校に空調を設置する必要性
学校に設置する空調は、教育環境の改善や生徒・職員の健康管理、災害時の対策などの観点から必要といえます。
学習に集中しやすい環境をつくる
空調を導入して快適な室内温度を維持することで、学習に集中しやすい環境へと改善を図れます。
文部科学省がまとめた資料『空調設置による教育環境向上の効果例』によると、生徒の約90%が「室温が高く授業に集中できないことがある」と回答しています。空調の設置後には、96%の生徒が集中して勉強に取り組めたと回答しています。
▼空調の設置による集中力の変化
画像引用元:文部科学省『空調設置による教育環境向上の効果例』
さらに、ある小中学校では、空調による室内環境の改善を図ったことで問題に対する正解率の向上も見られています。
なお、文部科学省がガイドラインとして定めている『学校環境衛生基準』では、教室をはじめとする施設内の温度は17℃以上28℃以下にすることが望ましいと示されています。
出典:文部科学省『空調設置による教育環境向上の効果例』『学校環境衛生管理 マニュアル「学校環境衛生基準」の理論と実践 [平成30年度改訂版]』『学校環境衛生基準(令和4年文部科学省告示第60号)』/奈良県『県立高校空調設備設置に係る導入前・後調査結果について(最終報告)』
高温・低温による体調不良を防ぐ
生徒と教員の熱中症や体調不良を防ぐために、空調による温度管理を行うことが必要です。
近年の日本では、夏場に災害級ともいえる暑さを記録しており、学校では毎年5,000件程度の熱中症が発生しています。また、暑さ・寒さによって気分の悪さや頭痛などの体調不良につながることも考えられます。
文部科学省によると、空調を設置して温度管理を行うことで、授業中の熱中症発症者や保健室来室者が減少したという結果が報告されています。
▼空調を設置して熱中症による保健室来室者が減少した事例
画像引用元:文部科学省『空調設置による教育環境向上の効果例』
そのほか、「給食の際に美味しく残さず食べられるようになった」「問題行動が減少した」などの事例も見られています。
出典:文部科学省『空調設置による教育環境向上の効果例』『学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き』
授業を計画に沿って進行する
空調を設置すると、夏季休暇中に補講が行えたり、2学期の開始時期を早められたりできるようになり、計画的な授業の進行が可能になります。
また、普通教室だけでなく特別教室・体育館などに空調を設置すると、高温による熱中症予防のために体育や専門教科の授業、部活動などを中止しなくてもよくなります。
これにより、授業の進行が遅延するのを防止できるほか、学内における課外活動の活性化を図れます。
災害時の避難先として活用する
自治体によっては、学校施設が災害時の避難先として指定されているケースがあります。体育館に冷暖房・換気を行える空調設備を設置することで、避難所として学校施設の防災機能を向上させて、生徒や地域住民が安心して過ごせる環境へとつながります。
また、体育館には断熱性能が確保されておらず、冷暖房効率が悪くなる可能性があります。全面的な改修も視野に入れつつ、断熱性能を確保したうえで空調設備を設置することが重要です。
学校の空調設置における課題
今後の学校には、まだ空調の設置率がそれほど高くない特別教室や体育館への空調設置を進めることが求められます。
特に体育館は災害時の避難所としての機能を持つため、BCPの観点からも空調設置を計画的に進めることが重要です。
ただし、学校の体育館に空調を設置する際には、空調設備の購入や改修工事、保守運用などのコストがかかります。既存の体育館の多くは断熱性能が確保されておらず、建て替えや改修を行わなければ、空調による十分な冷暖房の効果が発揮されない可能性もあります。
2020年に神奈川県川崎市の文教委員会で提出された資料では、川崎市の市立学校すべての体育館に空調を新設した場合、設置費が約77億円かかると試算されています。加えて断熱性能向上のための改修を行う場合には、約53億円の追加費用が発生すると試算されています。
私立学校での空調設備を新設・リニューアルする際は、国や自治体が運用する補助金・助成金を活用することも一つの方法です。
空調設備に関する補助金についてはこちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
出典:川崎市 教育委員会事務局『文教委員会資料』
まとめ
この記事では、学校の空調について以下の内容を解説しました。
- 学校における空調の設置状況
- 学校に空調を設置する必要性
- 学校の空調設置に関する課題
学校に空調を設置することは、学習に集中しやすい環境づくりをはじめ、高温・低温による体調不良の防止、授業計画のスムーズな進行、避難先としての防災機能の向上といった観点から必要と考えられます。
公立学校における空調の設置は、普通教室ではおおむね完了していますが、特別教室や体育館では一部にとどまっている状況です。教育環境の改善を図り、生徒と教員が快適で健康に過ごせるように、空調設備の新設・リニューアルを検討されてはいかがでしょうか。
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